第1章

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 『人形遊び』という都市伝説を知っているだろうか。  まず、ぬいぐるみを一つ用意する。擬人化されたクマやネコのような、手足のある物がいい。  それを心霊スポットに持っていき、腹を裂いてそこの砂を入れ、また縫い合わせる。そしてその頭のてっぺんに縫い針を刺す。こうすると、そこにいる霊がぬいぐるみ乗り移るというのだ。簡単な質問だったらイエスだったら右手を、ノーだったら左手をあげてくれ、答えてくれるらしい。そしてやめるときは頭の針を引き抜き、その場でぬいぐるみを燃やす。  俺は、彼女と一緒にその遊びをやってみることにした。もちろん肝試しなんて適当に終わらせて、あとで怯える彼女を落ち着かせるふりをして、どこかでうまいこと楽しめたらいいと思っていたわけだ。  まあ本来の狙いはともかく、俺らはテディベアっぽい安いぬいぐるみを抱いて、山の中の廃墟に行くことにした。  目的地の近くまで車を乗りつける。その日は特に暑い夜で、クーラーの掛かった車からでるとあっという間に汗がにじんだ。 夏だということもあって、廃墟の周りは背の高い草で覆われ、きっと昼でも見通しが悪かっただろう。闇の中でほとんど黒に見える緑に埋もれるように、コンクリートでできた真四角の小さい建物が建っていた。心霊スポットだけあって、さすがに不気味だった。 「やだ、もう怖いよ~」  彼女が腕にしがみついてくる。一応鍵がついていたようだが、誰かに壊されたらしく、ノブを回すと鉄製のドアが開いた。  中の空気は少しほこりっぽい。なんの建物だったのか、玄関から長い廊下が続き、その右側にイスも何もない部屋が二つ並んでいた。非常用の物や、工事に使う道具か何かを管理する小屋だったのだろうか。  歩くたび、自分の足音が響く。  とりあえず、廊下の突き当たりで、儀式を実行することにした。壁には、何かよくわからない落書きがしてあった。  エセテディベアの腹をカッターで裂く。そして指で床に溜まっていた砂を傷口にいれた。針なんて家庭科の授業以来だったが、なんとかホチキス留めした程度に傷を縫い合わすことができた。そして縫い針をアンテナみたいに頭にたてる。  針先がぬいぐるみに沈んだ瞬間、彼女が小さく息をのんだ。
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