古本屋さんとボディーガードさん・立ち読み編

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 店に入ると、いらっしゃいませ、とおとなしい声が聞こえる。 「あーえっと、鐘撞さん、ですか?」  僕は声のする方へ向かいながらそう尋ねた。 「はい……そうですけど」  また返ってくる、おとなしくて若々しくてちょっとか弱い声。まあ、この書店は個人経営だし、この声の主が鐘撞さん以外である可能性なんてほぼ考えられないんだけど。  なかなか控えめでおしとやかな声だったけど、さてさてそちらにはどんな可愛らしい女の子がいるでしょーか、なんて半ばふざけた気持ちでカウンターを覗く。すると、そこには無粋な無表情でこちらを訝し気に見る、まるで人形のような少女が立っていた。  ここにいるのは確かに血が通った人間のはずなのに、まるで生気が感じられない。本の精がそこに居座っているだけなのではないかとも思えてしまう。今でもぱちぱちと数度瞬きをしてくれなければ、息をしているのかどうか確かめたくなってしまうほどに、その子の存在はなんか危うかった。  肌は白く、そのせいか桃色の頬がやけに鮮やかに見える。僕が近づくにつれて口元をぎゅっと強く噛みしめるあたり、警戒しているのも見て取れた。 「鐘撞紫(かねつきゆかり)さん……ですね」 「……はい」  一応確認して、それから僕至上一番胡散臭い笑みを浮かべる。 「はじめまして。今日からあなたのボディーガードを務めます、十文字(じゅうもんじ)伊月(いつき)です」  すると、彼女は一瞬ぽかんとした顔をして、それからまたあの警戒態勢に入った。まあ、そうなるよね。 __________________________________ 「あ……すみません。いただきます」  早く食べなければ悪いと思ったのか、彼女は焦って用意したスプーンを手に取った。 「あ、まだ熱いからあんまり急がない方が……って、遅かったか」  スプーンを口に入れた紫は、熱さですぐに咽ていた。慌てて水道の水をコップに汲んで渡す。これだけ立派な家なら当然浄水器もついているだろうから、別に水道水でも問題ないよね? 「ほら、水飲んで」  渡した水を飲む紫はなんだか小動物のようで危なっかしい。見ていてハラハラしてしまう。ていうか、これじゃあボディーガードじゃなくて世話係みたいだ。まあ、前の主人も僕を世話係のように扱ってきたけど、それとはまた違う。どっちかっていうと世話を焼きたくなっちゃうタイプ。
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