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今ではもう木こりや猟師さえも寄り付かなくなった深い深い森の奥。
シュテヒパルネというそれはそれは美しい王国があったそうだ。
中心部にそびえる真っ白な城がシンボルなその国は、当時の周辺国に比べ科学技術や魔法技術の文化が著しく発達しており、優しい王族に見守られて国民全員が幸せに暮らしている豊かな国だったそうだが、ある日突然その姿を変えてしまった。
国全体が、何かを隠すかのように「いばら」で覆われてしまったのである。
一体シュテヒパルネに何があったのか。国民たちはどうなってしまったのか。
その「いばら」は一体何物なのか。
周囲の国々は慌てて原因を調べたが、長らくその原因が分からず、気づけばシュテヒパルネ王国の時間は止まったまま、三百年の時が経とうとしていた。
そして、今やシュテヒパルネ王国は「幻の王国」「史実上は存在していたとされる王国」として時代書の奥深くへ葬られようとしていた。
の、だが。
「シュテヒパルネ王国がいばらに包まれた原因が、分かったと言うのですか?」
カメーリエ共和国第三大学 理工学部 科学研究学科 実用科学専攻 第十三研究室所属学生、ハーゼ・フォルモーントは、ゴーグルをつけたセミロングの黒髪を少し振り乱しながら、バン、と力強く机を叩いた。フリルがあしらわれた白いブラウスにブルーのキュロットスカートを合わせ、ベルトやネックレスでお洒落をしようと試みてはいるが、上に羽織っている焦げついた白衣でそれが台無しになっているのが、彼女の残念なところである。
「やめておくれよハーゼさん。あまり高い机ではないんだ。力を入れれば簡単に壊れる」
のんびりと珈琲を啜りながら呟くのはトレーネ・シュペルリング。ミルク色の短い髪の上に緑のハンチング帽子を乗せ、清潔なシャツに白いスラックス、そして汚れ一つない白衣を纏うこの人物は、ハーゼとはそれほど離れていないような若々しい見た目ではあるが、これでもこの研究所の准教授である。
「うう……すみません」
眼鏡の奥の気だるげな瞳に見つめられたハーゼは、慌てて机の具合を確かめた後、おずおずと頭を下げた。
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