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ところがどうしてか、少年を連れ去った連中は、少年と男がそれなりに深い仲であると勘違いをしているようなのだ。いや、確かに睦言のようなことを言われはしたが、少年がそれに応えた覚えはないし、断じて深い仲などではない。寧ろ、客でもない彼との仲は、足湯のように浅いと思っている。そんなこんなで、隠し立てをするなと暴力を振るわれたところで、本当に何も答えることができないのだ。
よって少年は、困った顔を作って、もう何度も返した言葉をまた繰り返すことになる。
「そう言われても、あの人のことはよく知らないんです」
表情を作らずとも実際かなり困っているのだが、気を遣わないと内心の飽きが表に出てしまいそうだったのだ。それくらいには、もうずっと同じ台詞ばかりを吐いていた。
対する男も同じようなもので、代り映えのしない返答に笑みを深める。その表情に、少年は反射的に身構え、歯をしっかりと食い締めた。
次の瞬間、鈍い音とともに左の頬を打った強い衝撃に、少年は飛ばされるようにして床に倒れ込んだ。
もう何度も殴られているせいで頬は既に熱を持っていたが、そこにまた、じんじんとした痛みが上乗せされる。そのことに顔を顰めながらも、口の中を切らずに済んだことには安堵した。肉体の痛みには慣れているのだが、それでも血の味はあまり好きではないのだ。
内心で少しズレた感想を抱いている少年を見下ろして、男はわざとらしくため息を吐いた。
「なんだってそんなに頑ななのかねぇ。坊やとあの男が仲良しさんなのは、ちゃんと判ってるんだぞ?」
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