プロローグ

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 宰相にそっと歩み寄り耳打ちをしたのは、グランデル王立中央騎士団団長のガルドゥニクスだ。武骨な軍人を絵に描いたような彼が横に並ぶと、美人と称するのが相応しい顔立ちの宰相の容姿の良さがより一層際立った。尤もその体格は、一国の宰相には不似合いな程にしっかりしたもので、その美しさも中性的なものではなく、とても男性らしいものではあったが。 「この時期ですからね。私を含め国民は皆、他ごとに手を割く余裕などないのです。王陛下の生誕祭はそれだけ重要な行事だ。……ですから、まあ、物凄く気が進まない方法ではありましたが、一応手を打ちました。物凄く気が進まない方法ではありましたが」  淡い金色の癖毛をくしゃりと混ぜ、やはり重い声が吐き出される。彼が口にした、気が進まない方法に心当たりのあるガルドゥニクスは、曖昧な微笑みを浮かべて自国の宰相を見た。しかし、恐らく苦肉の策だろうそれが最も正しい選択なのだろうということも、なんとなくではあるが察しがつく。それがまたこの優秀な宰相殿の胃痛を招くのだろうなぁ、とガルドゥニクスは思った。  そもそもの事の始まりは、青の王国からの使者が来訪した数日前にまで遡る。  赤の王国と青の王国は、連合国の発足以前より仲が良いとは言えず、当代の王が即位して以降はより一層その溝が深まった。というのも、当代のグランデル国王は庶子なのである。元来血筋や家柄に厳しく貴族こそが至上とされる青の王国では、赤の王の存在は嫌悪の対象なのだ。     
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