不審な訪問者

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 それでも、こうも堂々と自国の王を非難するような発言をする者が存在するというのは、純粋に驚きだった。グランデル王国という、恐らく王を崇拝する人口が多い祖国の地を離れたが故に口が緩くなっているだけかも知れないが、これまでの男の様子を考えると、そう決めつけて良いかは甚だ疑問である。もしかすると、目の前のこの男は、グランデル王国において、国王を糾弾する発言ができるほどの地位を持っている者なのかも知れない。そう考えれば、質素な格好や気さくな言動に不釣り合いな漂う気品も、納得がいくような気がする。 「まあ、王の初手が誤っていたとしても、その誤りを誤りでなくすために、私が此処に居るのだ。随分と厄介な話になりそうだが、致し方あるまいよ」 「……貴方、は、一体、何者なんですか……?」  最初に会ったときよりも更に警戒が強い、いっそ敵対心すら窺わせるような声が、男の耳を叩く。だが、やはり男は気にした素振りも見せず、にこりと人好きのする笑みを浮かべた。 「これは参った、喋りすぎてしまったな。できれば、今聞いたことは忘れて貰えると有難い。……そうだな。私が私のことを語らぬが故に店主殿を不安にさせてしまっているようだったから、私なりに店主殿に歩み寄るために妥協した結果、だと思って貰えれば」  浮かべた笑みをそのままに、男が少年に向かって大きな手を差し出す。 「どうだろう。これで少しは、私と仲良くしてくれる気になっただろうか」  出されたそれは握手を求めているのだろうと判ったが、少年は、どうしてもこの不可解な男の手を握る気には、なれなかった。
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