潜入

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「いやはや、ちょうど良い。実は私もそういった類のものに興味があってな。これまで様々な国を渡り、数多くの娯楽に興じてきたが、どの国でも国家公認の賭博は刺激が足りなくていけない。特にこの金の国ではなぁ。……あまり声を大にしては言えんが、この国は窮屈だろう? そろそろ危ない橋を渡ってでも刺激を求めようかと思っていたところなのだ」 「……そりゃ本当かい? 他の国でも非合法なお遊びをしたって?」  疑うような目を向けられた男だったが、全く気にした様子もなく微笑んで返す。 「本当だとも。そうだな、それでは信じて貰えるよう、私が経験した面白い話でもしようか。折角だから店主殿も聞かないか?」  どう考えても耳に入れない方が良さそうな話だ。聞こえないような場所に移動しようかどうか考えあぐねていた少年は、突如振られた話に、しかし笑顔で拒絶を示す。 「いえ、僕は他にやることがあるので」  やんわりと断ったところでこの男ならば強引に話を進めるかと思ったがしかし、少年の予想に反して、それならば仕方がないな、と男はすんなり引き下がった。  以降の話は若い店主の知るところではない。だが、やけに満足そうな顔(といっても相変わらずその造形は曖昧だが)をした男が珍しく日が沈む前に店を出て行った後、残っていた常連客が随分と妙な顔をして少年を見た。 「キョウヤくん、あいつは一体何者なんだい?」 「……さあ? 僕も詳しくは……。……そんなに変な話だったんですか?」 「変というか、思っていた以上に危ない橋を渡ってる男だなありゃ」 「危ない橋……」     
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