プロローグ

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 しかし、それを当代グランデル国王に対して仕掛ける駆け引きとして考えるならば、余りにも愚行と言わざるを得ない。当代のグランデル国王は、歴史上最も優れたる王にして、異質の王だ。その思考は他国の王程度に読み取れるものではなく、常に他者の考えの遥か先を、迷うことない足取りで進んでいく。そして、冷酷なまでに冷静沈着にして聡明と謳われる青の国の王ともなれば、それくらいのことは把握している筈だろう。  ならば何故、こうも定石めいた策を仕掛けてきたのだろうか。赤の国王が定石を引っ繰り返す様など、嫌と言うほど見てきているだろうに。  とは言え、己が考え付くこと程度、あの王ならばもっと以前に思い至っているのだろう。故に、レクシリアがそれに頭を悩ませる必要はない。自分の力が必要ならば、王はすぐさまそう求めてくれるのだから。  兎にも角にも、式典まで、あとひと月余り。それまでに、なんとしてでも王冠を取り戻さなければならない。  考えただけで、また胃がキリリと痛んだ気がして、レクシリアはもう一度だけ、重々しい息を吐き出した。
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