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潜入
常連客の発した『裏カジノ』という単語に男が顕著に反応を示したのは、謎の告白から数日たった後のことだった。
発言した本人が僅かに呼吸を乱したことから察するに、例にもよって男の巧みな言述に乗せられて口を滑らせてしまったのだろう。
金の国では、賭け事の類は賭博法により厳しく管理されている。わざわざ裏とつけるあたり、法に準じた賭博ではないだろうことくらいは、まだ二十にも満たない少年でも想像できた。同時に、思わず顔を顰めてしまう。
面倒事や厄介事はごめんだ。少年はただ、平和に平凡に過ごせれば良いのだ。だというのに、異国の男はまたしても少年の平穏に影を落として来る。
どうかこれ以上に詮索はしてくれるな、という少年の願いも虚しく、災厄の権化のような男はやはり、少年が最も望まない行動を取るのだ。
「裏カジノ、か。それはそれは」
「あ、いや、今のは、」
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