2086人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
煌炎
耳に障る高い声と全身に無数に走る鈍い痛み。そのどれもを、少年は幕を一枚隔てたところで見ていた。より近い感覚で言うならば、少年はその舞台をすぐそこの客席から見ているのだ。
けれど少年は知っている。投げられる言葉の怨嗟が、ぶつけられる呪詛が。振り上げられた手がもたらす恐怖が。押し付けられる熱の苦痛が。どれほどまでに、その身体と心を傷つけ、凍てつかせていくのかを。
そして、それでもなお、想うのを、こいねがい続けるのを、やめられなどしないのだ。
少年は知っている。何故なら、少年は観客であると同時に、舞台上で悲鳴を上げる『彼』でもあるからだ。
世界とは苦痛である。物心ついたときから、世界というものは、ただ自身を脅かすものに過ぎず、『彼』はただ虫のように縮こまって、暴風が過ぎていくのを待つことしかできなかった。
伸ばした手が取られることはないと、知っていた。発する悲鳴は余計に嵐を呼ぶと悟り、喉を潰さんばかりに押さえつけていた。涙は零すだけ、貴重な水分と体力を失うだけで、いつの間にか瞳は常に乾いていた。
最初のコメントを投稿しよう!