設楽尊(したらみこと)× 真崎潤(まさきじゅん)

1/1
249人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

設楽尊(したらみこと)× 真崎潤(まさきじゅん)

 参ったと、設楽は視界の悪くなった会場を見回してそう思う。突然の事で仕方がないとはいえ、匡成の姿を見失ったのは失態だ。薄暗く、けぶった会場では今から探したところで合流できるとは到底思えなかった。小さく息を吐く設楽に、同じく雪人についてきていた真崎が話しかける。 「尊。部屋の鍵は、匡成様がお持ちでしょうか?」 「ああ」 「なら、心配は無用でしょう? 雪人様もいらっしゃいますし、お二人でどうにかなさるかと」  匡成がどうにかなるのは設楽とて分かっているのだ。そもそも設楽はそんな心配などをしている訳ではないのだが、説明するのも面倒臭い。というより、隣にいるのが真崎だというその一点が、設楽にとっては何よりも面倒臭いのだが。  匡成と雪人が付き合い始めてからかれこれ十八年。それぞれに仕える設楽と真崎の付き合いも既に長い。その上、ひょんな事から玩具とその所有主という関係を持ってしまった夜以降、既に十年近い時が過ぎている。  結局、真崎の猛アタックに押し切られる形で所有主のままでいる設楽はずるずると関係を引き摺ったまま四十三という年を迎えていた。  さすがに人前で妙な真似をするほど馬鹿ではない真崎は、今のところ大人しい。だが、いつ豹変するとも知れぬ真崎と二人というのは、設楽にとって喜ばしい事ではなかった。 「あの、尊…?」 「ああ?」 「わたくし、雪人様より部屋の鍵をお預かりしているのですが…、よろしければ一緒に…」 「断る」  ドきっぱりと拒否する設楽はだが、シアタールームから各自出るようにとのアナウンスにがっくりと肩を落とした。それに嬉々として腕をとったのはもちろん真崎である。 「一晩中船内を歩き回るおつもりですか?」 「お前と二人でいるよりは、その方がよっぽどマシだろ」 「そうつれない事を仰らずに…。尊の許可なく勝手は致しませんから…どうかわたくしと一緒に参りましょう?」  縋りつくように両腕で抱きつく真崎から、設楽はその逞しい腕をあっさりと引き抜いた。 「だったら勝手に触るんじゃねぇ」 「ああ…こんな事なら首輪とリードを用意しておくんでした…。犬のように扱われると思うだけでわたくしはもう……」 「死ね」  既にシアタールームに人の気配はまばらだが、いつ誰に聞かれるとも知れない場所で碌でもない想像をし始める真崎に設楽が顔を顰めた事は言うまでもない。が、そんな事はもう設楽には慣れた事であるのも確かだった。 「黙って案内するってんなら行ってやる」 「かしこまりました」  不機嫌そうな設楽の声音をもろともせず、真崎が先に立って歩きだす。その後ろを、設楽は無言でついていった。  通路に出ても視界は変わらず悪い。そんな中をすいすいと迷う気配も見せずに進んでいく真崎に、設楽は内心で感心していた。設楽とて方向音痴という訳ではないが、初めて乗る船で、しかもこんな街を一つ移植したような規模の客船で迷わず目的地に辿り着ける自信はない。  途中、ゲストを楽しませようと様々な姿に変装したクルーやスタッフが現れる度に、真崎が『お疲れ様です』と、そう言って丁寧に頭を下げる。驚かせるどころかつられて頭を下げるお化けたちに、設楽は後ろで苦笑を漏らすしかなかった。  得てしてあっさりと部屋へと辿り着いてしまった設楽と真崎である。ドアを開けて待つ真崎の前を通り抜け、設楽が部屋の中へ入れば大きな寝台の上にバスケットがひとつ置かれていた。何かと訝しげに覗き込んでいれば、後ろからやってきた真崎が中に入った布地を摘み上げる。 「ハロウィーンのコスプレ用でしょうか? ……それにしても…これは…」 「良かったじゃねぇか。大好きだろうが変態」  ニタリと嗤って設楽が言うのも尤もで、真崎の手にあるそれは、所謂拘束衣と呼ばれるものだ。コスプレ用というよりはアダルトグッズの部類に入るだろうか…。本格的なそれではないが、その辺の店で取り扱っているような仮装用の衣装ではまったくない。 「尊……」  名を呼ばれただけで真崎が何を求めているのか察してしまう設楽である。物のように扱われたい真崎にとって、拘束衣など垂涎の的に違いない。きらきらと目を輝かせて渇望の眼差しを向ける真崎が、拘束衣を抱えたまま設楽の長い脚にしがみ付く。  設楽は寝台の上に腰を下ろして真崎を見下ろした。 「どうして欲しいんだ? 言ってみろ」 「ああ…尊っ、変態のわたくしを…どうぞこれで拘束してください…っ」 「そんなに着たけりゃ勝手にしろ」  吐き捨てるように言う設楽に、真崎がそそくさと立ち上がる。躊躇いもなく服を脱いだ真崎の下肢は既に質量を増していて、両胸のピアスがキラリと照明を反射させた。  あっという間に拘束衣を身に纏った真崎が設楽の目の前に立つ。 「は…ぁ、尊…わたくしを…きつく…戒めてください…」  後ろ手に拘束できるようになっているベルトを設楽の目の前に差し出して、期待に濡れた声で真崎が懇願する。下手をすれば真崎自身がこれを用意したのではないかと設楽は思うが、そんな事はどうでも良かった。  肩の関節が軋んで真崎の口から小さな呻きが漏れる。そこから二段階ほどきつく、設楽はベルトを調整してやる。 「っあ、尊…っ、それ以上は…ああっ!」 「はん? 痛ぇのが好きなんだろう? 道具が生意気な口利いてんじゃねぇよ」  すべてのベルトを留め終えた真崎の躰を、設楽は無造作に蹴飛ばした。膝と足首まで拘束されている真崎は、当然踏ん張る事も出来ずに床に頭を打ち付ける。 「朝までそこに転がってろ」 「嫌です尊っ! わたくしを使って!」 「気が向けばな」  不自由な躰でずりずりと床をにじり寄り、真崎は煙草を咥える設楽の足へと頬擦りする。 「尊…、お願いします…貴方に奉仕したい…」  面倒になった設楽が寝台の上へと脚を持ち上げてしまえば、真崎は悲鳴にも似た声で名を呼んだ。 「尊っ! せめて…御御足だけでも…っ」 「黙れ変態。道具が喋るんじゃねぇ」 「っ……」  しっかりと口を閉じて静かになったはいいものの、真崎の表情は増々蕩けている事に気付いて設楽は些かゾッとする。自然と冷たくなる視線で見下ろせば、うっとりと縋るような顔で見上げられ、妙な色気を纏っているものだから手に負えない。  真崎を床に転がしたまま、設楽はひとり浴室へと向かった。匡成とははぐれてしまったが、雪人と一緒に行動しているのであれば自分の出る幕でない事は重々承知している設楽である。手早くシャワーを浴びて浴室から出れば、どうやったのか真崎が床の上にきちんと正座していた。 「動けるんだったらてめぇで上がってこい」  すっと真崎の横を通り抜け、ベッドヘッドに背を凭せ掛けた設楽は煙草を点けた。芋虫のように躰を捩りながら寝台の上へと這い上がろうとする真崎の姿を見るともなく眺め遣る。  一度上がりかけたところでサラリとシーツが流れ、真崎が床に落ちる。その様が何とも滑稽で設楽は無意識に口角を上げていた。  『玩具にしてください』と、そう言った通り、真崎は設楽を楽しませるのが案外上手い。その上、同業者の連中と比べても、その躰付きの割に真崎は無理がきく。多少どころか結構際どい事をしたところで壊れないのが面白い。  やがて寝台を器用によじ登り、敷布を引き摺りながら真崎は設楽の足へと頬を寄せた。愛おし気に頬擦りし、指先に口付ける様が設楽の欲を煽る。 「来いよ変態。お前を使ってやる」 「ッ!!」  設楽がそう言えば、ピクリと肩を震わせて真崎はずりずりと寝台の上を這いずった。期待に濡れた眼差しで懇願する。 「尊…どうかわたくしを使ってください。お願いします」  真崎は伸ばされた長い脚に甘えるように額を擦り寄せる。その髪を、設楽は無造作に掴み上げた。それだけで、真崎は恍惚の表情を浮かべる。  緩く勃ちあがりかけた雄芯の真上に真崎の頭を固定する。だが、設楽はその髪を放しはしなかった。限界まで舌を伸ばしてようやく先端に触れるような距離。 「っぅ…み…こと…」 「舐めろ」 「はっ…ぁ、…ぅ」  舌を伸ばしたままの真崎の口からはだらだらと唾液が滴り落ちて、設楽の股間を濡らしていく。 「ぁっ…ぅ、みこ…とぉ…、お願いします…喉の奥まで…貴方が欲しい…」 「ああ? どう使おうが勝手だろうが。二度と使わねぇぞてめぇ」  どう足掻いても舌が届かない距離まで頭を引き上げて設楽が言えば、真崎は今度こそ本当に悲鳴を上げる。 「嫌です尊っ!! 舐めますっ、舐めさせてください!!」  イヤイヤと必死に頭を振る真崎の頭を、設楽は自らの脚の上に降ろした。すぐさま顔を横に向けて雄芯に舌を這わせる真崎を設楽がせせら笑う。 「イキそうになったら突っ込んでやるよ。精々頑張って煽るんだな」 「んっ…はっ…ひ、ごひゅじんひゃま…」  唇で食みながら必死に舌を這わせる真崎の淫靡な横顔を、設楽は満足げに見下ろして再びベッドヘッドに背を預けた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!