運命を委ねよと影囁く夜

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「イルヴァ様、遅くなりまして申し訳ございません」  応接間へ足を踏み入れると、イルヴァ様は窓際の椅子に腰を下ろして私を待っていた。小さな体躯をすっぽりと布張りの椅子に預け、頷きひとつで私を迎え入れる。 「アウグスト様は」 「夕刻、息を引き取りました。最後まで意識が戻ることはありませんでしたが、眠るように静かな最期でした」 「――御魂光もとの幸福あれ」  瞼を閉じ、死後の幸福を祈る言葉は我が父へ。そしてイルヴァ様は静かな眼差しを私に向けた。その視線を面布越しに受け止めたとき、笑ってくれていい、私は気圧されたのだ。まだ十二歳にもなっていない小さな姫君。つい先日には嵐に怯えて私の背にしがみついていたような幼い子供。だが、その夜の貴女を子供と呼ぶことは口が裂けてもできそうになかった。 「スヴェン」  イルヴァ様が立ち上がり、ゆっくりと私に近づいてくる。ああ、ほら、やはりこんなにも小さい。薄らと互いの体温が感じられるほどに近づけば、まだ己の半分ほどしかない小さな姫だ。  私の名を囁きなごら労わるように小さな手にこの無骨な手をとられて、私は貴女の前に膝をついた。面布のざらざらとした糸の目の向こうから、大きな目がじっと私を見つめている。温かい、慈愛に満ちた目だ。布に遮られて、私はその瞳の本当の色を知らない。だが、私は貴女の柔らかく美しい心を知っている。 「イルヴァ様、私は父の跡を継ぎ、我が一族の当主となります」  告げれば貴女は見事に感情を殺して、分かっていると表情を変えることなく頷いた。
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