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「この度は宗佑を婿に迎えていただき、誠にありがとうございます」
深々と頭を下げる父親は、言葉とは裏腹に顔面蒼白だった。
袴姿の河谷 宗佑は同じく頭を下げつつ、父親をチラリと盗み見た。
頬は痩せこけ、増えた白髪が異様に目立って見える。まだ四十代後半にも関わらず、益々老け込んだように感じられてしまう。
小刻みに震える体から息子を不憫に思う気持ちと、安堵の気持ちが入り混じるように思えた。
「宗佑君が娘と結婚してくれるなんて有難い。娘も喜んでいることだろう……。しかし、本当に良かったのかね?」
高座に腰掛けているこの屋敷の主は、言葉尻をわずかに震わせていた。彼もまた、突然の悲劇に疲労困憊しているのだろう。
同情はする。それでも、こちらからしてみたら、良かったのかと聞かれるなんて意味のないことだ。拒否権なんてこちら側にはないのだから。
頭では理解していても、宗佑は恐怖と不安で今にも震え出しそうになる。
宗佑は気持ちを押さえつけるように、キツく唇を噛みしめた。
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