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まだ幼い頃の宗佑と三奈子は、一緒に川釣りに行くことがあった。
三奈子は体が弱いにも関わらず活発で、その度に使用人の村田 達彦が血相を変えて探しに来ていた。
毎度熱を出しては寝込んでいた三奈子は、体調が良い時にはよく屋敷を抜け出していた事もあってか、周囲は随分と肝を冷やしていたようだ。
宗佑も三奈子の体の弱さは知っていて断ってもいたが、連れて行かないと怒り狂って手がつけられない。
それに加え三奈子が時折、「村田は私のライバルなの。独り占めにはさせない」と宗佑の腕を引く時があった。
宗佑は何度も動揺しそうなのを必死で押さえ込むが、三奈子は宗佑の手を温度の高い手でぎゅっと握りしめては睨みつけてくる。三奈子の中で何かしら察するものが、あったのかもしれない。
三奈子の突然の死は宗佑にとってかなり辛いものだったが、熱でうなされていた三奈子も見るに耐えないものがある。
訃報を聞いた時、三奈子が苦しみからやっと解放されたのだと少しだけ安堵もした。
しかし、悲しむ暇もなく正蔵から今回の件が持ち上がり、宗佑の家族を含め周囲は慌てふためいた。
正蔵いわく、娘は宗佑との結婚を望んでいてこちらの縁談を蹴り続けていた。せめて、最後ぐらい娘の願いを叶えさせてやりたいというものだ。
宗佑の母親はよりいっそう体調を悪くし、父親は唯一の跡取り息子を奪われると嘆いた。
宗佑には兄弟がいないため、農家を営む上で後継者がいないのは致命的だ。
正蔵からの提案で、宗佑を婿に取る代わりに多額の結納金と養子を探すとの条件も付け加えられた。
最初こそは反対していた両親も、養子が来るならとりあえず家は大丈夫だと少しだけ安堵しているようだった。
残すは宗佑のみの決断だけとなる。それでも答えは決まっているようなもので、後は覚悟を決めるのみだった。
「三奈子ちゃんとは仲が良かったし、僕も好きだった。心配しないで。それに、望月さんが僕の代わりに養子を探すとも言ってくださってることだし」
宗佑は親に心配かけまいと、心とは裏腹に笑顔を作る。
「本当にいいのか?」
父親は何度も念を押してきたが、宗佑はその度に偽りの笑顔で頷く。
宗佑は不安な日々を送り、気がつけばあっという間に婚礼の日を迎えていた。
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