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執り行われた式は、簡易的なものであった。
いくら権力者とはいえ、流石に今回ばかりは大掛かりにはできない。万が一、集落の外に漏れた場合は批判も免れないだろう。
正蔵も流石にその辺は分かっているようだった。
白無垢姿の三奈子は白い棺に納められている。あどけなさが残る表情から一変し、白い肌は透き通り赤い唇が薔薇の花のようで、とても美しい大人の女性となっていた。
今までとは別人のような三奈子に、宗佑は戸惑いを隠せずにいた。
紅白に飾り付けされた指輪台に置いてある、小さい箱からそっとシルバーリングを取り出す。
まるで眠っているかのような彼女の左手を取ると、いつも温かった手が今では氷のように冷たく重い。
思わず体が震え、手を離しそうになる。冷や汗が背中を伝っていき、背筋が凍る思いがした。それでも、逃げ出したい気持ちを必死で抑え込む。
覚束ない指先でどうにか指輪ををはめ込むと、ゆっくり三奈子の手を下ろし、宗佑は息を吐き出した。
周りの空気もお祝いムードとは程遠く、一様に固唾を飲んで見守っている。
婚礼と葬式がない交ぜになっている不思議な式だった。
このまま埋葬するという流れになり、参列者が白い百合の花を棺に納めていく。これで、顔を見るのもこれで最後になった。
そこでやっと悲しみが込み上げ、 宗佑は溢れ出しそうな涙をグッと堪える。
さっきまでは上手く進行していけるのかそちらにばかり気を取られ、悼む余裕を持ち合わせていなかった。
改めて棺に視線を向けると、白い百合の花に反射した肌がより一層白く感じられ神秘的だった。
今更ながら自分と年端の変わらない、三奈子が不憫で堪らなくなる。
火葬も出来るはずだ。それでも、正蔵の強い要望で土葬となり海が見渡せる山の頂付近に、新たな墓地が作られた。
白い棺に砂がかけられていく様子を、宗佑はただぼんやりと見つめることしか出来ない。
参列者たちの啜り泣く声が、どこか遠いところから聞こえてくるようだった。
「とうとう海に連れて行ってやれなかった。せめて海が見える場所で‥‥‥」
参列者の啜り泣きに混じり、正蔵の震えた声で聞こえてくる。
「宗佑くん。ずっと一緒にいてやってくれ‥‥‥」
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