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 婚礼の儀を兼ねたお葬式が終わると、参列者たちは複雑な表情を浮かべながら足早に去っていく。  いつまでもここにいたところで、かける言葉が見つからないといった所だろう。  両親はどちらともつかない涙を流し、宗佑に「元気でね」と抱きしめると正蔵の元に挨拶に行ってしまう。  ふと、視線を感じて宗佑は視線を向ける。望月家の親戚筋で三奈子のいとこである、(わたる)がこちらを睨みつけていた。  久し振りに見た彼は相変わらず端正な顔立ちながら、猫のような強気な雰囲気が滲み出ている。  正蔵の跡取りがもしかしたら、宗佑になるのではないかと懸念しているのだろうか。  そんな無駄な心配は不要なのにと、宗佑はぼんやりした頭で考えた。  自分はそんな器を持ち合わせていないし、どちらかと言えば引っ込み思案で人に流されやすい。そんな人間が資産家の跡継ぎなどあり得ない話だ。  それに農家の長男と言っても、体格が良いわけでもない。中性的な顔立ちをしているので、小さい頃は女の子に間違えられるほどだった。  父は心底がっかりしている様子だったが、このように生まれてしまってはどうしようもない。仕事を手伝っているうちに身体が鍛えられることを祈ることしかなかった。    養子に来る人間はきっと自分よりがっしりした体躯で、農家の長男にふさわしい人が選ばれるといい。    頭ではそう考えても、宗佑の気持ちは沈んでいく一方だった。    嫌な思考を振り払い、宗佑は周囲を見渡していく。  大広間にいた正蔵と長身の男の姿が目に留まり、一気に心臓が早鐘を打ち始める。  スラッとした長身に、後ろになでつけた黒い髪。銀縁眼鏡の奥に切れ長の目が宗佑を見つめていた。ツンと澄ました顔に少しだけ複雑な色が伺える。一年ぶりに見た村田の姿だった。    そんな村田の姿に、一年ほど前の淡い思い出が蘇ってくる。
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