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「そんなに私が頼りないですか?」
ふわりと宗介の体が前のめりになり、村田の胸に収まる。
思わぬ出来事に宗佑は、目を見開きされるがままになる。
一週間ぶりの村田の体温と匂い。心臓が早まり、涙が溢れる。離れたくない……でも、
「村田さん……僕はあなたの居場所を奪いたくなかった。このことが知られたら、屋敷から追い出されてしまうかもしれない。それが何より嫌だったんです」
とめどなく流れる涙を止めることが出来ず、嗚咽を漏らす。
「僕はどうなってもいい。だから渉の条件を呑んだんです……たった一週間であなたが救われるなら、僕はなんだってします」
もう、どうにでもなればいい。自分の気持は伝えた。後は村田に判断を委ねようと村田から体を離し、視線を合わせる。
村田は痛々しいものを見るように、宗佑を見下ろしていた。
「……私の為にそんなことまで」
村田が掠れた声で呟く。
「僕は汚されてしまった。もう、あなたに触れることは出来ない」
宗佑は涙をこぼし、村田からフラフラと距離を取る。
自分はとんでもないことをしていたのだと、今更ながら気付かされる。
結局は村田を傷つけ、何も解決することができなかった。
「あなたは本当に馬鹿ですね」
驚いて宗佑は顔をあげると、村田は慈しむような目で宗佑を見つめ、呆れたように微笑んだ。
「お嬢様があなたのことを馬鹿だと仰っていたのが、よくわかります」
村田が宗佑に近づくと、優しく抱き寄せる。
「まるであなただけが、私を思っているような言いようじゃないですか。私だっていつもあなたのことを思っていますよ」
宗佑の耳元で囁くように訴えかける。かっと頬が赤く染まり、心臓が止まりそうになる。
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