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「私もあなたが好きでたまらない。渉さんとあなたのことを見た時が、人生で一番辛かった‥‥‥」
村田が苦しげな顔で、宗佑を見つめる。
そんなにまで自分を思っていてくれたのかと、宗佑はやり場のない気持ちを持て余す。
「本当のにごめんなさい。僕は一人突っ走ってしまっていたようです。もっと、村田さんを信じればよかった」
宗佑は村田のシャツのボタンを外すと、首に手を回し自らに引き寄せ唇を合わせる。
再び深い口付けが交わされ、静かな部屋に二人の吐息が交じり合う。
「こんな汚されてしまった僕だけど……抱いてくれますか?」
宗佑は唇を村田の耳元に近づけ、甘く囁く。
「あなたは汚れてなどいない。とても綺麗です」
村田は宗佑の首元に舌を這わせ、そのまま下へと唇を移動させていく。
「はぁっ……む、むらたさん……」
胸の突起を喰むように吸われ、下腹部が一気に熱を持つ。
「もうすぐ私は、村田ではなくなります」
村田が僅かに顔を上げ、いたずらっぽく唇の端をあげる。
正蔵の言っていたことは本当だったのだと、宗佑は安堵の涙をこぼす。
これでやっと村田も幸せへの一歩を踏み出せるはず。そこに自分が傍にいれたら、どんなに幸せなことだろう。
村田は宗佑の左手を取ると、薬指に光るシルバーリングに手をかける。
「お嬢様には申し訳ないですが、私は自分の気持ちを誤魔化せそうにないです」
訴えかけるような瞳で宗佑を見つめ、この指輪を外してもいいか、暗に聞いているようだった。
宗佑はゆっくり頷き了承の意を示す。三奈子には申し訳ないが自分もまた、気持ちを誤魔化さずに村田に向き合うと決意する。
その様子を確認した村田がゆっくり指輪を外し、テーブルに載せる。
宗佑はその様子を黙って見つめる。
外されて行く指輪が全てを背負って抜けていくように、体が軽くなった。
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