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宗佑は体を洗いつつ、すでに湯船に浸かっている村田に目を遣る。
髪を濡らし、垂れた前髪のせいか少し幼く見える。新たな一面を見つけ、宗佑はむず痒い気持ちになった。
宗佑の視線に気づき村田が小さくおいでと誘う。
狭い浴槽にどこを位置取るか宗佑は考えあぐねていると、しびれを切らした村田に腕を引かれ、上に腰を下ろさせる。
向かい合わせになり、互いの顔が近い。視線を合わせるのが恥ずかしく、宗佑は俯くしかなかった。
湯船に浸かったばかりなのに、すでに逆上せたように頭がぼんやりする。
村田は宗佑の濡れた頬に手を当てると、宗佑はその手に自分の手を重ね合わせた。
「なにがあっても、私はあなたの傍にいますよ」
村田が愛おしげに宗佑を見つめる。
そこで三奈子の手紙が頭をよぎる。本当ならすぐさま開封すべきだったのに、村田のことで頭がいっぱいで抜け落ちていた。言うなら今だと宗佑は口を開く。
「……達彦さん。渉から……写真の入った封筒と一緒に三奈子ちゃんからの手紙を渡されました」
村田が目を眇めた。
「読んだのですか?」
「いえ、まだ開けていません」
「そうですか……」
村田が考え込むように視線を伏せる。宗佑は村田から離れると湯船から上がる。
「……僕はこれからその手紙を読みます。達彦さん、そばに居てもらえますか?」
村田の返事を待たずに宗佑は浴室から立ち去る。
そこに何が書かれているのか分からないが、やっと決着をつける時が来たのかもしれない。
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