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宗佑は部屋に戻ると、上着の内ポケットから封筒を取り出す。
後からやってきた村田が宗佑に近づくのが分かり、視線を村田に向けると封筒を見せる。
「……開けますね」
宗佑は震える手で封筒の封を切ると、中には三つ折りにされた紙が入っていた。何枚か入っているようで少し厚みがある。
取り出してみると三枚重なっていて、震えているような字で書き出しに宗佑の名前がかかれていた。
その手紙にはもうすぐ自分が居なくなってしまうこと、正蔵が病に臥している三奈子に宗佑を婿にすると約束してきたこと。
自分に止められず申し訳ない、そんなこと望んではいないので宗佑は、村田と幸せになって欲しいと記されていた。
短い文面だったが、熱に浮かされた手で懸命に宗佑の事を考え書き連ねたと思うと、宗佑は涙が溢れ出る。
死ぬ間際まで自分の事を心配してくれていたのだ。
いつも強気な態度で宗佑に接してきたので、亡くなってから夢に出てくるまでそんな風に思われていたとは知らなかった。
涙を零す宗佑の肩に、村田は優しく手を置く。
震える手で二枚目を見ると、村田の名前が書かれていて目を疑う。
もう一枚も見ると『渉へ』と書かれていた。どうやら一人一枚ずつ用意されているようだ。
自分の命の灯火が僅かだと悟り、最後の気力を振り絞って宛てたのだろう。
渉は夜の丘の上で三奈子は自分に何も残していないと言っていたが、実はここに一緒に託されていたのだ。
「達彦さん……」
近くで見守っていた村田に村田宛の一枚を渡すと、村田は静かに受け取り目を落とす。
渉の分は自分が読むべきではないと、宗佑は封筒に戻す。
あんなことになってしまった今、渉に会うのは気まずい。それでも、この封筒に一緒に収められていたということは、三奈子は二人の関係が良好になることを望んでいる。
さすがに渉が、これを脅しに使うとは思っても見なかっただろうが。
三奈子の思いを伝える為にも、宗佑は近いうちに渉に連絡しようと心に決める。
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