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翌日、宗佑は目を覚ますとまだ日が昇りきっておらず、窓から弱々しい光が差し込んでいた。 宗佑は自分の隣で眠る男に視線を向ける。静かな寝息をたて、無防備な表情で寝入っていた。 起こさないようにそっと布団から抜け出すと、テーブルに置かれたシルバーリングを手に取り身支度を整える。 外は夏の終わりを告げるように、涼しい風が吹いていた。 宗佑はその風を受け止めながら、三奈子の墓がある丘へと向かう。 長いようであっという間だった日々が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。 ここまで自分の背中を押してくれたのは三奈子であり、ちゃんと報告をしなければと宗佑は歩みを進める。 たどり着くと、昇っていく陽の光に照らされた海が美しく、光輝いていた。 宗佑は墓前の前に跪き、シルバーリングをそっと供える。 「三奈子ちゃん……ごめんね。僕は本当に頼りない男で、君に馬鹿だと言われてもしょうがない」 訴えかけるように墓を見つめる。 「今まで背中を押してくれてありがとう。そして、僕を好きになってくれてありがとう。三奈子ちゃんの言う通り、自分に正直に生きてみるよ」 語り終えると、草を踏む音が聞こえ振り返る。眠っていたはずの村田の姿に、宗佑は驚いて目を見開く。 「ここにいたのですね」 村田が少し呆れたような顔で、宗佑に近づいてくる。 「三奈子ちゃんにお礼を言いに来ました」 村田と一緒ではなく、一人で三奈子に自分の決意を告げようと思っていた。 自分はこれから強く生きていかなければいけない。三奈子の分まで……。 村田は一つため息を漏らすと、宗佑と入れ替わるように墓前に静かに腰を降ろす。 「お嬢様……これからはこの方を私がお守りしていきます。それから――」 一旦言葉を切り、視線を彷徨わせる。 「私は望月家に正式に息子として迎え入れられ、旦那様の後を継ぐことになりました。母は違えど、父は同じです。やっと兄弟になれた気がします」 村田が優しく訴えかける。返事はないがきっと三奈子も喜んでいることだろう。 宗佑は心の奥からホッとした感情が湧き上がり、呪縛から解かれたような清々しい気分になる。 村田もこれで過去を清算出来るかもしれない。
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