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「……宗佑」
名前を呼ばれふと顔をあげると、村田が立ち上がりこちらを見つめている。
「行きましょうか」
呆然とした宗佑を残し、村田が先立って丘を降りていく。慌てて宗佑も追いかけ、村田の横に並ぶ。
「先程も言ったとおり、これからは私が当主として、望月家を守っていきます」
硬い口調には不安の色が滲んでいた。村田ならなんの心配もないだろう。今まで正蔵の近くで事業の手伝いもしてきている。
それに正蔵もすぐに引き継ぐわけでなく、時間をかけて当主としての、心構えを仕込んいくと信じたい。
簡単にはいかないかもしれない。周囲は驚くだろうし、反対する者も出てくるだろう。
それでも、宗佑は近くで支えていきたいと願う。もう迷いはない。
「私が当主になった時には――」
これは私のわがままですと村田は付け足す。
「望月家の姓を外して欲しい」
宗佑は驚きのあまり村田の顔を見つめる。望月家には自分が邪魔になるということなのだろうか。
確かに当主になったからには子孫を残し、繁栄させていかなければいけない。
そのためには嫁を取る必要がある。宗佑は頭が真っ白になり、言葉が出てこない。
顔面蒼白な宗佑の様子に気づき、村田が慌てて歩みを止め宗佑と向き合う。
「何を考えているかわかりませんが、違いますよ!」
目に涙を溜めた宗佑の肩を揺さぶる。
「今はまだあなたはお嬢様と婚約しているようなものです。だから――」
言葉を切ると優しく宗佑を抱きしめる。
「旦那様との養子縁組を外し、私と養子縁組を組み直して欲しいと思ってます」
宗佑は自分が誤解していたことに気づき驚く。まさか村田がそんなことを考えているとは、青天の霹靂だ。
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