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境界線の恋心
夕暮れが近い校庭で、私は宗佑と出会った。
お嬢様を初めてお迎えにあがった時、彼はお嬢様に腕を引かれ苦い顔で歩いていた。
長いまつげを伏し目がちにし、一瞬女の子と見紛うほどの可愛らしさだった。
くっきりとした二重まぶた。小さな顔に収まった、整った鼻と唇が色気すら漂わせている。
服装と髪型からして男の子だと分かったが、女装でもしたらさぞ似合うことだろう。
任務を遂行させねばと、思考を振り払う。
出鼻をくじかれたせいで、お嬢様がこちらに気づき、突然駆け出していってしまう。
思わず「お嬢様!」と声をかけ、慌てて追いかける。
もうすぐ追いつきそうになったところでお嬢様が「宗佑の馬鹿!」と少年を突き飛ばす。
この少年は宗佑という名前なのだと分かり、いつもお嬢様が話していたことを思い出す。
「宗佑はね。頼りないから私が、守ってあげなくちゃいけないの」
胸を張ってそんなことを言っていたので、「お嬢様はもう少し落ち着かれたらどうですか」といつも呆れたように言うのが常だった。
ひとまずお嬢様は諦めて、宗佑と呼ばれた少年の体を支える。
驚いた顔をした宗佑が、こちらを見上げ呆然としている。
私は小学生相手に少々堅い挨拶をするも、宗佑はただ呆然とした顔で自分を見つめる。
私は少し困ってしまい、とにかくお嬢様を捕まえる旨を伝えその場を後にする。
その日以来、年甲斐もなく宗佑の姿を目にする度に逸らすことの出来ない自分が居た。
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