124人が本棚に入れています
本棚に追加
お嬢様は私のその様子が気に食わないのだろう。宗佑と話をしようとすると、間に割って入ってくることがしばしばあった。
嫉妬しているのだと分かる。それでも何かにつけて、私は彼と話をしようと目論む。
彼の恥ずかしげに伏せた目は、いつ見ても自分の心を掻き乱す。
今までそんな経験がなかったので、これが恋というものなのかと初めて知った。
それと同時に深く絶望もする。
血の繋がりがないのにも関わらず、自分を救ってくれた奥様に顔向けが出来ない。
旦那様と私の母との間に私が生まれた。けれども、認知することなく母は捨てられた。
母は怒り狂い、私を殴っては憂さ晴らしをする。
「あんたは私に似て顔だけは良いのだから、もう少し大きくなったら売りに出すから」といつも言っていた。
自分はこれから売られてしまうのだ。でも母に殴られるよりマシかもしれない。頭の中でグルグルと考えては、一頻り泣く毎日だった。
10歳になったある日、自分を引き取りたいと名乗る若い女性が現れた。
母は最初渋ったが、多額の金額を積まれると素直に引き下がる。
やはり自分は母にとって、必要のない存在なのだと身を持って思い知らされた。
それと同時に、こんな自分を引き取りたいだなんて、物好きな人だなと私は不思議に思った。
初めて奥様に会った時、長い綺麗な黒髪に優しそうな目元が印象的な綺麗な女性だった。
「はじめまして。あなたが達彦くんね」
綺麗に澄んだ声で、母の高圧的に罵る声とは雲泥の差だった。
「……はい」
「私はね、あなたのお父さんの奥さんなの」
上目遣いで彼女を見上げる。
「本当ならあなたをこっちに住まわせてあげたいのだけど……」
思い詰めた様子で視線を逸らす。
「あなたも来たら来たで気を使うでしょうし、それだったら都内の学校で寮があるところを探したほうが良いと思うの」
「お金の心配はしなくていいのよ」と付け足す。
最初のコメントを投稿しよう!