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十歳の少年相手にお金の話をするのはどうかと思うが、奥様なりに気を使ってくれたのだろう。
それから話はトントン拍子に進んでいき、寮付きの学校に入学することが出来た。
奥様は時々手紙を送ってきては、様子を伺ってくれた。
母の愛を知らなかった私にとっては、彼女が本当の母親のように思えてならない。
私は少しでも役に立ちたいと、寝る間も惜しんで勉学に励んだ。すべては自分に手を差し伸べてくれた奥様の為に……。
大学では知識を屋敷で使えたらと経営学を学び、主席で卒業するまでに至った。
恋もせず青春も謳歌することもなく、とにかく早く恩返しがしたい一心だった。
大学を卒業すると同時に、奥様に手紙でそちらの使用人になりたい旨を認めて送る。
すぐに会いたいと電報が届き、近くで会うことになった。
十二年ぶりに顔を合わせた奥様は少しやつれていて、私は驚きを隠せず奥様に詰め寄る。
けれども奥様は弱々しく微笑むと、「ただの風邪よ」と言うだけだった。
後々聞いた話では、すでに病魔が襲いかかっている状態だったらしい。
それなのにも関わらず、自分の為に遠路はるばるここまで足を運んでくれたのだ。
私は歯がゆい気持ちで、感謝の気持ちとそちらの屋敷で使用人という形で雇って欲しいと再度伝える。
奥様は困った様子で眉尻を下げ、「気持ちは嬉しいけれど元はといえば主人がしたことだから、あなたは気にすることなく自分の人生を歩んで欲しい」と難色を示す。
確かにそうかもしれないが、このままでは引き下がることは出来ないと私はひたすら頭を下げ続ける。
さすがに奥様は折れたようで、主人に聞いてみると言ってくれた。
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