境界線の恋心

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 転機が訪れたのはお嬢様が17歳になり、私がここに来て7年目の29歳の時のことだ。  お嬢様が嫌な笑みを浮かべながら、私に近づいてきた。 「私ね!宗佑を婿に取ろうと思ってるの」  私は頭を強く殴られたような衝撃を受ける。いつかは時が来たら訪れることだと分かっていた。 「しかし、一農家の彼を婿に取るのはさすがに旦那様も反対なさると思いますよ」  正論を述べてるつもりで、私は密かに嫉妬していたのかもしれない。  お嬢様は目を細め、私を観察するように見つめる。動揺を悟られないようにはしているが、心臓が激しく打ち背筋に冷たい汗が流れる。 「その辺は大丈夫よ。私が宗佑と結婚出来なかったらこの家を出ると脅せばいいし」 「親戚筋を跡取りにする可能性もありますよ。都内の有名私立高校に通う渉様もいらっしゃいますので」  大人げないと自分でも分かっていた。  実際、旦那様はお嬢様に見合いの席を設けても、お嬢様がそれを拒否していることは知っていた。  旦那様が折れれば、本当に宗佑を婿に迎えかねない。 「村田って――」  お嬢様がこっちを睨みつける。私は自分の気持ちに気づかれたかと肝を冷やす。 「意地悪ね」  意地悪だと思ってもらって結構だと胸を撫で下ろす。  確かに私の立場で、お嬢様の想い人を奪うなんてことは以ての外だ。本当だったら素直に祝福したい。  考えとは裏腹に、鉛のように重い胸のつっかえがいつまでも取れず、複雑な気持ちになる。
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