境界線の恋心

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 暗然たる気持ちを抱え、日々を過ごしていたせいかミスが増え仕事に集中できなくなってきた。  旦那様は叱責こそすれども、多少なりとも気を使ってくださっているようだ。さすがにこのままではいけないと私はある賭けに出る。  雨の降りそうな灰色の雲がかかる夕暮れ時。  私は今は使われていない、古びた公民館へと向かう。  現在は村の中心部に新たな公民館が作られ、この場所も取り壊しが決まっていた。  この場所で、宗佑と会うことが出来たら気持ちを伝えようと決めていた。  なぜここかというと、宗佑の帰宅途中で誰も立ち入らなさそうな場所がここしか思い浮かばなかったからだ。  賭けで言うと確実に勝率は低い。だからこそ、この恋に奇蹟でも起きない限り、叶わないと分かっていた。  こんな事をして何の意味があるのかわからなかった。気持ちを伝えたところで宗佑が断ればそれまでで、今後顔を合わせるのも気まずくなってしまう。  それでも自分の気持ちにケリを付ける口実が、欲しかったのかもしれない。  狙い通りに突然雨が降り出した。雨音を聞きながら、窓際に移動しそっと外の様子を伺う。  カーテンの隙間から差し込む、微かな灰色の光が薄暗い室内をなんとか照らしていた。  埃っぽい匂いにも慣れてしまった頃、玄関が開く音がし緊張感が体を駆け巡る。  心臓が高鳴り、期待の気持ちと不安な気持ちが入り交じる。  足音が聴こえる度に、頭が真っ白になる。こんなにも緊張したのは初めてだと我ながら驚く。  望月家に来た時も緊張はしたが、まだ学校で学んだ武器のお陰で、自分に自信というものがあった。  しかし、恋愛事となる話が違ってくる。色恋沙汰がまったくなかったわけじゃない。勉学に励むため、付き合ったことはないが、告白されたことは何度かある。  でも、それは他者から向けられた自分への好意であって、自分から好意を向けたのはこれが初めてだった。  相手が男だということに疑念を抱かなかったわけではない。それに、普通に女性にも興味がある。  もしかすると、好きになった宗佑が男だったというだけで、性別なんてどちらでも良かったのかもしれない。
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