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私の緊張は受話器を通じて電話の向こうの彼にも伝わってしまったのだろうか。
彼が一呼吸置いた。
それは私が慌てるような間(マ)ではなく、何かがフッと抜けるようなわずかな間だった。
『夕べはあの時間にメールに返信が来たので驚きました』
彼は先程よりもかしこまった雰囲気を除いて言った。
「あ……。私の方こそ、ご迷惑かと思ったんですけど。うれしくてつい……」
彼が誘導する穏やかな空気に取り込まれるように、私はつい肩の力を抜いていた。
すると、見えないはずの彼が笑ったような気がした。
彼は声など出していない。
ただ、そんな息遣いが聞こえたような気がしたのだ。
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