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私は向こうが受話器を置くのを確認すると、耳からゆっくりと受話器を離した。
電話機から手を離してもなお、私の緊張はまだわずかに続いていた。
これからが始まりだというのに、すでに何か大きなことをやり遂げたような感覚だ。
深呼吸するように深い息を吸い込み、安堵の息をもらした途端、船越さんが声を掛けてきた。
「何だって?」
電話を終えてデスクのすぐそばまで来ていた船越さんがその場にいた全員を代表して尋ねてきた。
「夕べメールが届いたんですけど、デザインフェスで見た眞辺のグラフィックを気に入ってくださったみたいで、仕事の依頼をしたいと。眞辺の担当……ってことで、私に連絡が来たんですけど、改めて詳細をくれるそうです」
私が説明すると小さな事務所が大きく沸き、全員の視線が眞辺に注がれた。
「デザイナーの眞辺さんによろしくって言ってましたよ」
「そうか。でかした眞辺!」
船越の太い声が明るく響き、拍手まで飛び出した。
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