497人が本棚に入れています
本棚に追加
少しでも物音があった方がいいと思い、お湯を沸かしながら倉田さんに電話を掛けた。
そわそわしながら片方の耳ではコール音を聞き、もう一方の耳は眞辺がいる方へ神経を張った。
実際、そんなことが可能かどうかは別にして、私の気持ちはそうだったのだ。
しばらく鳴ったコール音が途切れると、
「はい、倉田です」という心地のいい声が耳元に届いた。
「……あ。アートプレイデザインの杉浦です」
「いつもお世話になります」と挨拶したところで倉田さんが笑った。
声を潜めたせいか、はたまたその声が事務所に独特の響きを持たせたせいだろうか、彼には私の今の状況がすぐに分かったようだ。
「まだ仕事中なんですね?」
「はい……。あまり遅くなってしまっては申し訳ないと思って……」
すると、彼は先程よりも大きく笑った。
笑い声の周りに足音が響く。
一瞬であの黒光りする四葉のビル内が思い浮かんだ。
最初のコメントを投稿しよう!