軋(キシ)む夜

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眞辺とはいろいろな店に焼き肉を食べに行っているが、予約したのは一番馴染みの錦通の店だった。 最新の設備とは程遠い店で、いつも店内は煙っているが、私たちはこの店が気に入っていた。 古びた外観も若い女性客には敬遠されるのか、店内には常連と思われる男性客ばかりだった。 私たちはお互いの好みが頭に入っているので、席についてものの数秒で注文は終わる。 今日は二人ともこの後仕事に戻るつもりなので、ウーロン茶で乾杯した。 最初に網の上に載ったのはもちろん牛タンで、この店独特の厚みのある歯ごたえ抜群のタンだ。 いつもそれを一人分だけ注文し、歯ごたえを楽しんでスタートを切る。 「来てよかったね」 「だな」 こうやって二人で肉の味と一緒に些細な幸せを噛みしめる。 今まで何度も食べたことのあるお肉だが、 眞辺との焼肉が久々だったこともあったのか、 私は今まで以上に美味しく感じた。
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