私の知らない色

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杉浦のマンションに着いた時には、 ドアを開けるとすでに夕飯のいい匂いが漂っていた。 「おつかれ」 杉浦はそう言って俺を出迎えたが、いつかこれが『おかえり』になればいいと、ふと思った。 車で来た俺に、杉浦は最初にビールを出すのを躊躇したが、俺が「ビール」と、言うと、見間違いでなければ一瞬だけ嬉しそうな顔をした気がした。 自惚れかもしれねえが、そう思うと気分がいい。 二人で乾杯して遅い夕飯が始まった。 「上手くいくといいね」 「上手くいかせるに決まってんだろ?」 二人の間に仕事の話があるのは当然だ。 俺たちは普段と何も変わらなかった。 ただ、杉浦が俯いて目を泳がせたので、俺は何事かと杉浦の言葉を待った。
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