番外編【新人デザイナーの憂鬱】

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ペンタブは握っているものの目的がなく動き、モニターに向けた視線も定まらない。 ただ、耳だけが杉浦さんの声に反応していた。 しかし、次の瞬間、 俺の視線も手も、全く動きを止めてしまった。 杉浦さんは、先方に、謝罪とデザイナーの交代を申し出るものだとばかり思っていた。 けれど…… 違った。 「デザイナーは橋爪のままで行かせてください。絶対にご希望に沿ったものを仕上げますから」 杉浦さんはそう言い切った後で、 「それはごもっともですが……」 時折そんな言葉を交ぜながら相槌を打ち、しばらく相手の話を聞いているようだった。 俺は申し訳ないような、気まずいような心持ちで俯くしかなかった。
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