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鍵を閉めようと扉に手を伸ばした時、小さな重みを感じた。
慌てて扉から手を離すと、ガラッという音と共に
「わっ!」
という声が響いた。
「びっくりした……」
「それはこっちのセリフですよ、小夜子さん」
「ごめんごめん」
はにかむように笑った小夜子は
「あー……もう、閉店よね。暖簾……」
「いえ、どうぞ」
慌てて小夜子が店に入れるよう道をあけると、ペコリッと頭を下げながら中に入った小夜子はカウンター席に座った。
「ビール飲みます?」
「んー……今日はいいかな。ラーメンと餃子1人前」
「珍しいですね」
「そうだね」
そう言って笑った後、彼女はじっとラーメンを作る悠人の様子を眺めていた。
「今まで聞いたことなかったけど、悠人くん何でこの店やろうと思ったの?」
「あぁ、元々は親父の店で僕は手伝ってただけだったんですよ。でもある日急に店たたむって言いだして」
「へー、失礼だけど、体調か何か……?」
「いえ。年金で自由に暮らすとか言って、急に母と沖縄に移住したんですよ」
「へー行動力があるわね」
「老後は息子の世話になりたくないからって。お前の人生はお前のものだからって急にかっこつけたこと言ったりして。だから別に継がなくても良かったんですけどね。何となく……かな」
そう言って笑う悠人を見て、小夜子は微笑んだ。
「いいご両親じゃない。私もそんな家庭だったらもう少し人生が違ったかもしれない」
「えっ?」
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