閉店間際の客

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「父がね、亡くなったのよ」 小夜子の言葉に悠人は思わず作業の手を止めた。 「こらっ!手止めないで。私の餃子焦がしたら怒るわよ」 「あっ……すいません。えっと……」 「いいの。気使わないで。どこかでほっとしてるの。やっと解放される、って」 悠人は再び言葉に困り、戸惑いの表情を見せた。 「悠人くんって、案外分かりやすいわよね」 クスクス笑った後、小夜子は話を続けた。 「ろくでもない親でね。早く居なくなればいいのに、そしたらもっと自由に生きられるのに……って、何度も思ったの。でもいざ父がいなくなったらどうして良いか分からなくなって。 自由になりたかったはずなのに、手に入れた自由をどう扱って良いのか困っているの」 「小夜子さんが結婚したくないのって……」 「鋭いなー!うん。父の影響が大きいと思う。父がいなくなったら、あんだけこだわっていた結婚したくないって思いも何となくどうでも良いことになってしまって。 それどころかちょっと一人は寂しいなぁなんて思ったりして。勝手よね、私」 小夜子はそう言ってケラケラと笑った。 「そんなことないです」 できあがった餃子を小夜子の前に置くと 「ありがとう」 という言葉だけが返ってきた。
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