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二人の奇妙な関係が始まったのは、一年前、小夜子が同棲していた彼氏と別れてすぐのことだった。
初めて小夜子が店に入ってきた日、悠人は「厄介な客がきた」と思った。
べろべろに酔っ払い、足元もおぼつかない小夜子は
「餃子10人前」
と平気で言ってのけたのだ。
「お客さん、そんなに食べられないと思いますよ」
「いいから!こっちは客よ」
「……申し訳ありませんが出てってもらえますか」
「えっ?」
「こちらにも客を選ぶ権利があります。自分が作ったものを粗末にする人に出せるものはありません」
悠人のその言葉に小夜子は、酔いが覚めたのか、ポロポロと泣き出した。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
その姿に慌てたのは悠人の方だった。
「いや、すいません。そんなに泣かなくても……」
慌てて小夜子の傍へいきティッシュを差し出すと、わっと泣き出した小夜子は悠人の体にしがみついた。
ただ繰り返し謝る小夜子を見て、いたたまれなくなった悠人は小夜子の体を支え慰めることしかできなかった。
「大丈夫ですから。気にしないでください」
そう言って背中をさすると、小夜子は安心したように体を離し
「ありがとうございました。お騒がせしてすみません」
と店から出ていった。
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