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愛と呪縛と
「ただいま」
「遅かったな」
かれこれ何年、おかえりという言葉を聞いていないだろう。
「うん」とか「おう」とか小言とか。
父の聞きなれた言葉に小夜子はあいまいな返事を返した。
「嫁入り前の娘がこんな遅くまで……」
「父親みたいなこと言わないでよ」
「わけのわからないこと言うな。父親だろ…ごほっ」
荒げた声と共に、せき込む父の背中を仕方なく小夜子はさすった。
「早く結婚して、俺に楽をさせてくれよ。一緒に暮らしていた……あいつ何て言ったっけ。
良いやつだったじゃないか。会社も大手だし……」
「はいはい。早く寝なさいよ」
父の呼吸が規則的に戻ったのを確認して、小夜子は自分の部屋へと向かった。
「だから、結婚しないのよ」
シャツのボタンをはずしながら、そうつぶやくと、部屋の扉を閉め、思わずその場にへたりこんだ。
「やばい……泣ける」
零れ落ちる涙をぬぐうと、昨年のことが鮮明に思い出された。
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