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目が覚めると、屋外の階段の踊り場にいた。
「おっ、おれは救えたのか?」
焼けつく臭いが充満するなか、海渡の頬に涙おちる。
階段を駆け上る消防士たち、俺の横に来た金仁は肩をたたき、言った「よくやった」と。
時はさかのぼること1日前。
海渡は火事で家族を亡くしたときの夢をみる。
燃え行く妹に対し、何もできない幼い自分。
燃え盛る火を振り回す女性が歪んだ笑みで俺に微笑む。
あの時、俺は消防士の金仁に助けられ、家族は焼け死んだ。
妹を亡くした苦しみを数年経った今でも乗り越えられずにいる海渡。
そんな彼を心配する養父の金仁。
いったい、俺の力は何のためにあるんだ。
日々、自問自答。
そんなとき、商店街の一角で火事がおきる。
燃え盛る5階建ての建物。焼ける匂いと共に思い出す家族の死。
建物が燃え上がる火柱とかし、火は逃げ行く人々を襲い囲んで行く。
この辺りは細い道ばかりで消防車は入れない。
逃げ道も塞がれ、窓から飛び降りることも考えた。
だが、それでは取り残された老人や子供を救えない。
意識朦朧としながらも考える海渡。
窓の外をみると隣のビルの非常階段が見えた。
避難できると希望を見出すが、この建物から3mも離れていたのだ、その階段は。
これでは子供やご老人は階段へ飛び移れない。
不幸中の幸い、物置部屋に梯子があった。それを使い、隣の非常階段へ逃げる人々。
だが、この梯子は一人ずつしか渡れない。幼子が恐る恐る、体を震わせながら、梯子を渡っていく。その子の母親は心配そうに避難した先で待つ。
幼子が足を踏み外す。俺は咄嗟に窓から勢いよく飛び出した。
幼子を掴み抱えて落下していく。次の瞬間、背中に衝撃が走る。肺から空気が押し出され、息が詰まる。
そして冒頭に戻る。
火事を見つめる女がいた。彼女の姿は海渡の妹が生きていて成長したら、こんな姿だろうと言えるぐらい酷似していた。
これは海渡が消防士を目指し、放火魔の女を見つける物語である。
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