診療所

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「診療所」               あなたはどう思っていたのか ぼくの声を聴いて ぼくの心を覗いて 形のなかったぼくに触れたあなたに触れる あたたかかった掌の感触を覚えている 窓からの揺れる葉、木漏れ日、そしてうつる影の形を 白い服で迎えたいつもの胸のざわめきを 雲が消えてゆく様子をずっと見ていたことを語ったぼくの頭を 撫でてくれたあなたの優しさから景色が色づいていったこと 激しい夕立の向こうの蒼空へと明け渡していく姿にあなたを重ねた 重ねて儚く思った 静寂の中独り、ぼくの裡に降りていきました やはりぼくはいなくて かわりにいつものぼくがいて でも、もう吃驚はしなくて いつも通り確認して浮かび上がってくるときには朝焼けで ぼくの姿がくっきりと浮かび 一面、光が照らしていくのを覚えていた となりであなたが笑うからね 項垂れていた頭を持ち上げて世界を見渡せば ぼくだけが在り、ぼくだけがいなくて ぼくはいつも新しいドアを開けてあなたとあうのだけれど いままでのことをはっきりと見届けたことを伝えたら また頭を撫でてくれた あなたは、優しくないというけれどね 朝の木漏れ日をまぶしそうに見つめながらまた笑う そう、この瞬間にいたかったんだ そんなことに気づきながら ぼくはやわらかく抱きしめられる コトバ、それは誰かのおまじない もう、縛られなくてもいいんだよ すべての制限を解いてもいいんだよって ぼくをみていたあなたが堪らずに呟いて あなたの視界に ぼくはちゃんと息づいていたことを確認して ぼくは、にっこりと笑う
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