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正気を取り戻したのか久住の腕の中で弱々しく腕を突っ張る。仕方なく、久住は存分に貪ろうとしていた唇を渋々離した。
「あ、あの、するのは吝かではありませんが、する前に言ってください…」
誉は顔を真っ赤にして、語尾が消え入りそうな声で抗議する。
「なんで敬語?」
含笑いながら誉を見遣ると、突っ張っていた腕を緩め、逆に久住のジャケットを引き寄せてそこへ顔を埋めた。
「恥ずかしいからだよ!」
久住の胸で喚いている誉のつむじを眺めながら、腹筋を揺らす。
真っ赤になって笑うなと怒っている誉の姿が可愛くて仕方ない。久住のジャケットに顔を埋めている姿が可愛くて仕方ない。キスされて弱々しく抵抗する葛藤が可愛くて仕方ない。
誉すべてが愛おしい存在に成り代わった。
恋とはこんなにも人を馬鹿にさせるものなのか。
「誉」
未だジャケットに顔を埋めている誉に声をかける。柔らかい髪質を確かめるように指を絡ませながら撫でていると、そろそろと誉が顔を上げた。若干ふくれっ面なのがまた可愛いと思うのは惚れた欲目だろうか。それとも誰が見ても誉は可愛いのだろうか。
するりと誉の頬に手を添える。
「キスしてもいいですか?」
「……いいよ」
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