118人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
葵と俺は同じ高校へ進み、寮生になった。規律の厳しいことで有名な全寮制高校、聖光学院。カトリック系の高校だ。家がカトリックな事もあるけど、その高校へ進学するのは代々続く昔からの家のしきたりだった。地元の中学を卒業したら親元から離れ、集団生活の場に身を投じ、規律を守りながら社会性を学ぶ。
部屋は勿論、兄弟同室は許されない。他人と暮らす経験も必要と言われた。決められたルールを守らないと、同室の人間にも迷惑がかかる。
でも葵はいつも平気でルールを破った。
教師からは何度も言われた。
「蓮見君、君たちは姿かたちはそっくりだけど、天使と悪魔ほど中身が違うね」
悪魔は言い過ぎだと思ったけど、教師も冗談を言ってるのだと我慢した。たしかに葵は自由奔放で、俺とは真逆。反省室の常連だ。
「翠、手ぇ」
葵が両手を差し出す。触れるとヒンヤリと冷たい。葵は冷え性で、俺は代謝がいい。だから寒がる葵の手を温めるのは俺の役目で、温めてあげると葵はいつも嬉しそうに笑った。
いつも……昔はいつも二人でいた。なんでも分かり合えた。なのに、いつの間にか違う道を歩んでる。
でもそれも仕方ない。これが大人になるということなんだろう。子供時代はもうとっくに過ぎ去った。俺にニコッと微笑むあの可愛らしい葵も、もういない。
葵たちがヤってるところを止めて、数日経ったある日の夜だった。部屋で小説を読んでいると黒川がフラリと部屋に戻ってきた。
葵に会いに行ったのは知っていた。だから、あの感覚に苛まれるのは覚悟はしていた。でもいつまで構えていても、あの感覚がやってこない。俺はホッとしつつ、妙な肩透かしを感じていた。
黒川は無言のままベッドの横に立った。本に影が落ちる。
「黒川、どいて。暗い」
「…………」
黒川は何も言わず、俺の本を掴むと、ポイと本を捨てた。呆気に取られて黒川を見上げる。
「なにすんだよ」
「なぁ、葵にフラれちまった。お前のせいでさ」
「え?」
あっという間だった。
気がついたら黒川に押し倒され、キスまでされていた。
最初のコメントを投稿しよう!