翡翠色の秘密

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 葵と俺は同じ高校へ進み、寮生になった。規律の厳しいことで有名な全寮制高校、聖光学院。カトリック系の高校だ。家がカトリックな事もあるけど、その高校へ進学するのは代々続く昔からの家のしきたりだった。地元の中学を卒業したら親元から離れ、集団生活の場に身を投じ、規律を守りながら社会性を学ぶ。  部屋は勿論、兄弟同室は許されない。他人と暮らす経験も必要と言われた。決められたルールを守らないと、同室の人間にも迷惑がかかる。  でも葵はいつも平気でルールを破った。  教師からは何度も言われた。 「蓮見君、君たちは姿かたちはそっくりだけど、天使と悪魔ほど中身が違うね」  悪魔は言い過ぎだと思ったけど、教師も冗談を言ってるのだと我慢した。たしかに葵は自由奔放で、俺とは真逆。反省室の常連だ。 「(あきら)、手ぇ」  葵が両手を差し出す。触れるとヒンヤリと冷たい。葵は冷え性で、俺は代謝がいい。だから寒がる葵の手を温めるのは俺の役目で、温めてあげると葵はいつも嬉しそうに笑った。  いつも……昔はいつも二人でいた。なんでも分かり合えた。なのに、いつの間にか違う道を歩んでる。  でもそれも仕方ない。これが大人になるということなんだろう。子供時代はもうとっくに過ぎ去った。俺にニコッと微笑むあの可愛らしい葵も、もういない。  葵たちがヤってるところを止めて、数日経ったある日の夜だった。部屋で小説を読んでいると黒川がフラリと部屋に戻ってきた。  葵に会いに行ったのは知っていた。だから、あの感覚に苛まれるのは覚悟はしていた。でもいつまで構えていても、あの感覚がやってこない。俺はホッとしつつ、妙な肩透かしを感じていた。  黒川は無言のままベッドの横に立った。本に影が落ちる。 「黒川、どいて。暗い」 「…………」  黒川は何も言わず、俺の本を掴むと、ポイと本を捨てた。呆気に取られて黒川を見上げる。 「なにすんだよ」 「なぁ、葵にフラれちまった。お前のせいでさ」 「え?」  あっという間だった。  気がついたら黒川に押し倒され、キスまでされていた。
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