翡翠色の秘密

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「んん?」  ビックリして硬直してたけど、黒川が服の中に手を入れてきた感触に我に返った。 「や、ちょっと、なにすんだよ! 俺は葵じゃない!」 「顔は一緒だよ。身体だって。俺はぶっちゃけ、葵とヤってから、お前のこともいいなって思ってたんだ。なぁ、俺と付き合えよ。気持ちよくさせてやるから」 「無理無理! 誰がお前なんかと!」  野球バカの黒川は身長も体重もある。押さえ込まれて身動きとれない俺は必死で言葉を続けた。ブチッとボタンが弾け、カラカラと転がる乾いた音が遠ざかっていく。 「正気に戻れって! どけよ!」  黒川の背後で、ドアがバンッと大きな音を立てた。 「うわっ!」  声を上げた黒川が、斜めになってベッドからドスンと落ちた。開けた視界に葵が立ってる。 「(あきら)に触んなっ!」  葵が黒川の胸ぐらを掴み拳を振り上げた。 「葵!」  葵を止めるのと同時に、遠くで先生の声がした。こっちへ来る。葵は黒川のシャツを離し、俺の手を掴むと部屋から引っ張りだした。駆けつけた先生が立ち止まる。 「蓮見、大丈夫か?」  それを押し退けさらに葵は走った。 「黒川! お前っ!」  背後で聞こえる先生の怒鳴り声。  引っ張られるまま全力で走った。苦しい。ドクドクと心臓が暴れる。手首が重く痛い。食い込む葵の指。身体は熱を発してるのに握られた部分の血が止まってどんどん手が冷たくなっていく。  葵は階段を駆け下り、階段下にある掃除道具がしまってある倉庫の扉を開けた。俺を押し込み中に入って扉を閉めてしまう。  肩で息をしていた葵が振り返り、扉に背をドンと預けた。俺を見て眉を下げ、泣きそうな顔で微笑む。  その顔に胸が苦しくなった。
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