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「なにやられてんだよ」
「ヤ、やられてないしっ! 誰があんなやつと」
ハァハァ息を弾ませながら反論する。葵も同じように息を切らしながら重そうに腕を上げ俺を「それだ」というように指さす。
「……な、なんだよ」
葵がフラリと倒れるように抱きついてきた。慌ててガシッと受け止める。
「葵?」
「心配させんな」
真横で呟く葵。
「なんでっ」
心配してたのはいつも俺だったのに。
黒川に押し倒されて悟った本当の気持ち。
ねぇ、もしかして……俺を守るために……あいつと?
違うかもしれない。でも、こみ上げる気持ちをもう、誤魔化すことができなかった。
「翠は俺のだから」
ああ――。
背中に回った葵の腕がキュッと締まる。俺は葵を、同じ強さで抱きしめた。
同じ気持ちなのだとしたら……もう、怖くない。
葵のヒンヤリした手が俺の頬に触れ、額がピッタリとくっつく。まだ微かに乱れたままの、二人の呼吸を重ねた。
俺は葵へ感覚を共有していたことを白状することになった。
葵が目を細め微笑む。
「じゃあさ。俺たち二人でしたらきっと凄いだろうね」
もう片方の手も添え、両手で頬を包まれた。
葵の口角が妖しく上がる。
うん。葵となら地獄へ落ちたって……かまわないよ。
完
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