6人が本棚に入れています
本棚に追加
「それ以降、もう廃墟巡りやスポットには行ってない。社会人になってから、
しばらくしてこんな噂を聞いたよ。山関係の仕事をする人の話でね。
山間部の廃村や使わなくなった農作業の小屋なんかに、住み着く人がいるそうだ。
それはホームレスだったり、いろんな理由で山に逃げ込んだ人だと思う。
今時?って思うだろうけど、あるんだよ。そういう事が。確かに山なら上手く水源を
見つければ水には困らないし、食料なんかは山菜とかキノコ、時には虫だって
食べればいい。住処や防寒着は、小屋や家屋に残された物で何とかなる。ただ、
人と会う事はない。だから喋る必要はないよね。言葉もだんだん忘れて、
1人で山の中をさまよっていく。やがては着替えとか、
身なりなんかも気にならなくなる。人間らしい振る舞いは必要ない。
ゆっくり、ゆっくり壊れてく…そうやって最後は人だけど、人ではない者になって
しまうんだよ。だから、もし見かける事があっても絶対に近づいちゃいけない。喋りかけるなんて、考えてもいけない。何をされるかわかったもんじゃない。黙って視界から消えるのを待つんだそうだ。町に住んでる人には、わからない。山に入る者の掟だって言ってたね。」…
話をしながら当時の出来事を思い出したのか?少し身震いする先輩のグラスに、
私と同じサークルに所属する友人のTが、心得顔でビールを注ぎ、快活に訪ねます。
「先輩があった人?妖怪っすかね?何か名前はないんですか?」
ビールを一息で飲みほした先輩はしばらく黙り、ボソッと呟きました。
「モリの…モリノヒト。」…
最初のコメントを投稿しよう!