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「そうだな!だけど、車乗る前に、ちょっと用を足してきてぇ。」
友人の一人がそう言って、村の道を外れ、森の中に入っていきました。家の中は先程の様子でしたから、外でトイレをしようという訳です。Tと友人達は、彼の帰りを待つ
わずかばかりの時間をどう潰そうかと辺りを見渡していました。
「わあああああーっ」
突然上がった悲鳴に、全員が声の方向を振り向きました。悲鳴を上げたのは、森に入った
一人です。余談ですがTはこの時、彼がズボンをちゃんと穿いていた事に、何故か妙に
安心してしまったそうです。失礼しました。話を戻します。
こちらが「どうした?」と訪ねる前に彼が、掠れ、掠れの悲鳴みたいな声を上げました。
「1人じゃない。1人じゃなかった。」
その後もずっと「1人じゃなかった…」と泣きながら呟く彼の様子に、全員が鳥肌を
立てます。
「おいっ…あれ?…」
Tの隣の一人が、森の方を指さします。視線を移した彼は、大きく目を見開きました。
「森が動いてる…?」
先程までは静かだった森が動いています。いや、動いているように見えます。よくよく目をこらせば、人間大の大きさの植物…緑の塊が、いくつもこちらに向かって進んできているのです。先輩が見た“モリノヒト”は体中にキノコや虫が付いていても、それはまだ人間だと思える印象でした。ですが、これは違います。全身を植物で覆われた緑一色の怪物です。
「逃げよう。」
誰彼ともなしに呟くと、じりじりと車のある方向に後退しました。その意図が伝わったの
でしょうか?森を移動する“塊達”のスピードが一気に早まりました。
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