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「うわああああーっ!」
全員が悲鳴を上げるには充分の光景でした。走り出した彼等ですが、放心状態で呟く一人を引っ張っていったのは言うまでもありません。見れば、村のあちこちから、緑の塊達が姿を現し始めています。もう、喋る事も忘れたのでしょうか?無言で、全身を震わすようにして進むその姿は、不気味さを通り越して、嫌悪感を感じさせるには充分な異様さです。
1番先を走っていた者が車に飛び込み、エンジンをかけました。続いて乗り込もうとした
一人が悲鳴を上げます。
「道の方にもいるぞ!」
これから車が進む森の道にも、いくつもの姿が見えています。ですが、すぐ後ろから近づいてくる大量の落ち葉を箒で穿き進むような大轟音が、彼等に躊躇させる余裕を捨てさせました。
「いいから出せ!」
Tの叫びと同時に、全員が乗ったのを確認した友人が車をスタートさせました。
バックで道を下る車に、廃村を緑で埋め尽くした塊達が次々と追いすがり、草にまみれた
腕を振り上げ、窓を擦るように叩いていきます。車内は彼等の悲鳴と草や植物がぶつかる
大音量に包まれました。とにかく進める道を進み、気が付けば一般道の入口に出ていたそうです。悲鳴と滅茶苦茶に走らせた車が、事故一つなく無事下山できたのは奇跡だったと言えます。車には緑の筋がいくつも走り、草独特の青臭さと腐った食べ物のような臭いが、
ベッタリと纏わりついていたそうです。
「もう、人間っていうより、森そのものだった。あれは…あれは一体何だったんだ?」
山を下りた数日後、Tは私と会い、こう呟きました。後日談として彼が聞かせてくれた内容には、最初、塊に遭遇した一人は森で用を済ませ、立ち上がった所で“周りの森が急に動きだした事”に悲鳴を上げた話が追加されていました。彼は目の前の光景とTの話から
“それ”が単体だと思っていた予想が見事に裏切られ、前述した「1人じゃなかった。」の言葉になったそうです。ただ、この内容も、しばらく様子が可笑しく、会話もまともにできなかった彼が最近になって、ようやく語ってくれたものだったと言います。
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