祟り

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 このところ、よく眠れていない。不眠症というのは一般的に、病気や精神的な不安が原因だといわれているが、私はその類ではない。眠れない原因、それは悪夢にあった。私は毎晩のように、悪夢にうなされ目を覚ます。  最初、私は暗闇の中に立たされていた。ここが、どこかも分からず手探りで暗闇の中を進んでいく、やがて、そこはどこかの森の中であることを知る。すると、どうだろうか。一度でも、自分がいる場所が森だと分かると、急に周囲が月明かりで照らされ見えるようになる。それでも、完全には暗闇は消えず数メートル先が見える程度で、森のその奥まで見渡すことはできない。 (どうして、私はこんなところにいるのか?)  真っ先にそんな疑問が頭を過ぎる。人間というのは不思議で寝ている時は、起きる直前までそれが夢として認識することができない。だから、夢の中の私は前後の記憶がなく、単純に自分が森の中にいる理由だけを考えてしまう。  どっちに進んだらいいのかも分からず、ただ私は前進するしかなかった。夢の中だというのに、足に触れる落ち葉や草の感触が妙に生々しいことを覚えている。  時間も何もかも忘れて進んでいくと、夢に変化が起こる。これもいつもの通り。森の奥から、誰かの悲鳴が聞こえた。男か女か区別もつかない甲高い悲鳴だった。目が覚めれば、ただ事ではない悲鳴だというのに、私にとっては大事な目印でもあった。悲鳴が聞こえる方に走った。  何度も、悲鳴は聞こえ、その声は助けを求めていた。この時の私は、その人を助けようという気持ちよりも、この森から出ることばかり考えていた。どんな形であれ、森さえ出られたらそれでよった。  そんな私の邪な考えを悟ったからなのか、悲鳴は突然、聞こえなくなった。 (どうしたんだ!急に!)  森に変化をもたらしていた唯一の悲鳴。それが、途絶えたことに激しく動揺しつつも悲鳴が聞こえていた方に私は走った。一分もすれば感は鈍り、方向を見失ってしまう。
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