祟り

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「あ!」  そして、その場に出くわしてしまう。戦国時代の甲冑を身に纏った武将がそこにいた。数メートル先も見えないというのに、武将の甲冑の隙間より血走った目が見える。。不思議なことにそこだけは一つの舞台であるかのように明るく月明かりがスポットライトのように照らしていた。  息を荒くした武将が悲鳴の主だったのか----違う。あの悲鳴は武将の雰囲気に似つかわしくない。いや、それ以前に、悲鳴の主が彼でないことは一目瞭然だった。  女だ。二十代ぐらいの色白の女が木の幹に身体を預けるようにして倒れていた。単に気絶しているだけなら、声を上げるほどではなかった。女は背中を左肩から大きく斬られていた。白い着物は血の赤い色で染まりきっている。そして、武将の手には血だらけの刀が握られていた。  武将は私に気づいたのか、気づいていないのか。一度だけ、私の方を見ると背を向け獣のように粗い呼吸をして、そのまま、走り去ってしまった。  まるで、時代劇のワンシーンでも見ているかのようだった。月明かりの演出といい、そんな雰囲気を私は不謹慎ながらも感じてしまった。混乱する頭の中、私は自分のやるべきことを見極める。無駄かもしれないが、女を助けなければとそう思った。まさに、その時だ。  幹の全身を預けていた女の手が動いたのは。女は幹をその細い腕と手で掴むとギシギシと不気味な音を立てて振り返る。その顔からは血の気は失せていたが、鬼気迫るものを感じた。 (この女はもう・・・)  生きているという感じがしなかった。目の前にいる女はすでに息絶えている。そうだと分かっているのに、私は動くことができなかった。女は不自然な姿勢のままで、私のことを睨み付ける。 「呪って・・・やる・・・。祟っててやる・・・。このう・・・らみ・・・・絶対に忘れない」  女は呪いの言葉を口にする。私を武将と勘違いしているのだろうか。私はつい今しがた、ここに来たばかりだというのに。そのことを女に伝えようとしたが、私は違和感を感じた。全身に重くのし掛かる感覚。何も持っていなかったはずの自分の手には血で汚れた刀が握られていた。  鏡など無いが分かる。自分の顔を擦ると、甲冑の面がされていた。その姿はまるでさっきまで、そこにいた武将と同じだった。
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