祟り

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 そこで私は目を覚ます。これが、このところ、毎晩のように見ている夢であった。顛末や流れに多少の変化はあるが、概ねの流れはこのようなものだ。  目が覚めれば、ただの夢なので気にすることもないが、どうしても私の脳裏から、あの鮮烈な悪夢が消えることはなかった。  こんな奇怪な夢、医者にも相談できない。相談したところで、薬を処方されるだけで終わる。  私は悩んだ挙げ句、有名なお寺の住職のところを尋ねることにした。郊外に住む住職は私を一目見ただけで、青ざめた顔になりこう言った。 「お主、立川門真を知らぬか?」  いきなり、見ず知らずの人の名を言われた。立川某など心当たりがないと、言いたかったが妙に心に引っ掛かる。  私はしばらく考えて、ようやく一つの話を思い出した。それは、随分前に祖父に聞かされた話だった。  祖父には門真という先祖がいて(私の祖先でもある)、有名な武将だったらしい。出世して、長者の娘との結婚も約束され、順風満帆の人生を送ったという。 「恐ろしいことじゃ」  祖父から聞かされた話を住職にすると、彼は溜め息をついた。 「その門真という男は、長者との娘と結婚する為に恋仲だった女を一人殺したらしい。恋人である門真に裏切られた女の魂は怨念となって、その末代であるお主にまで祟ろうとしている」  住職の話を聞き、心底恐ろしくなった。悪夢の最後、私自身が立川門真になっていたのは偶然ではなかった。彼の子孫だったこそ、私は狩れと同じ姿をしていた。女の祟りが紆余曲折を経て今、私に降りかかろうとしていた。  どうして、住職がそのようなことを知っているのか聞いていると、 「全てはお主に取り憑いてる女の霊が言ったこと」  女の霊。女はずっと、私に取り憑いていたのか。  住職は事態が悪化する前にお祓いを済ませた方がいいと言う。安くはなかったが、悪夢以上のことが起こるのは嫌だったので、私はお祓い料を払うことにした。  それにしても、いくら祖先の話とはいえ、立川門真という男も余計なことをしてくれたではないか。恋仲だった女を殺すとは。
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