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「土日に、お通夜と告別式やるんだって。お父さんもお母さんも仕事で行けないから、理央行ってきてくれる? 御香典わたすから」
自分が行ったところで、何年も前の園児のことを覚えているわけがないだろう。そう思ったが、死んでしまったんだから、そんな概念が故人に通じるわけないか、と考えを改める。
「わかった」
お使いに行くようなものだよな。
人生ではじめてのお通夜である。理央は葬祭の作法を、スマートフォンで検索しはじめた。
「信太郎くんや聡くんと一緒に行ったら?」
「なんでだよ」
「一人より心強いでしょう。お友達と一緒だと」
「めんどくさい。一人でいい」
「あっそう。じゃあ好きにしなさい。まったく……反抗的な態度ばっかり。こっちだって疲れてるのにアドバイスしてあげてるんだから、おとなしく聞いておけばいいのよ」
「余計なお世話」
母親はわざとらしく、深いため息をついた。可愛げがない、と言わんばかりである。
だが、それでいいのだ。母親にとって可愛い時代は、とっくに終わった。自分はもう、両親の帰りを震えて待つ子どもではない。
風呂場から、死のにおいを洗い流す音が聞こえてきた。
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